相手に響くプレゼンは演劇で学べ 「父と暮せば」

私がプレゼンテーションの個別指導やセミナーを仕事にすることになったのは、まぎれもなく「商工会」や「青年部」を活用して、実感し、学び、実践したことと、お客様のニーズと私の持つスキルが合致したからです。

 

2021年年末に「プレゼンテーションは商工会で学べ」という本を出したのも、1人でも多くのプレゼンを「苦手とする人」を、プレゼンは「楽しい」「ワクワクする」という感情をもってもらいたい、その思いだけです。

 

しかしながら、こちらが「伝えた」ことが、相手に「響く」というのは、一朝一夕では出来ない。そのためには、やはりたゆまぬ努力と表現するチカラをつける必要があります。

 

この度、私が尊敬する役者さんが大阪で二人芝居をしました。その舞台を観て、感じたこと、プレゼンの極意をここに記します。

目次

「父と暮せば」あらすじと「ご縁」

父と暮せば佐藤正和

観劇したのはゴツプロ!Presents/青春の会 第二回公演「父と暮せば」。

作は、井上ひさし氏で演劇のためにかかれた戯曲です。私も大学時代に演劇はハマった頃があったので、井上ひさしさんは存じ上げていましたが、この作品は黒木和雄監督の映画の予告編で知りました。黒木監督は宮崎県都城市にある泉ヶ丘高校が母校の方で、私が大学卒業後、勤務したラジオ局がある場所です。2003年「美しい夏キリシマ」の上映会をラジオで取り仕切らせてもらったことがあり、何かとご縁を感じずにはいられません。

 

この二人芝居の主演は、佐藤正和さんと中薗菜々子さん。この佐藤正和さんとは2006年から2007年にかけて、東京のコミュニティFM局で、同じ番組を担当することになってからのご縁。そう考えると15年以上のお付き合いとなりました。このブログをお読みのあなたも、もしかしたら、テレビドラマなどでチラリと観たことがある役者さんかもしれません。例えば『勇者ヨシヒコシリーズ』や『半沢直樹』などに登場していたりしている役者さんなんです。

 

そんな佐藤さん、東京にいる頃からお芝居がある時は観に行ってたんですが、私が兵庫に越してきてなかなか観る機会も減ってしまいました。しかし、ゴツプロ!という劇団に所属するようになって大阪での公演が増え、また観る機会が増えてきました。舞台の道でどんどん進化し、成長し続けるとても尊敬する役者さんです。

 

井上ひさしさんが書いた「父と暮せば」のあらすじですが…戦争が終わって3年後、1948年夏の広島が舞台。原爆によってすべてを失った美津江の前に、父親の竹造が幽霊として現れます。竹造は、美津江が「自分は幸せになってはいけない」と罪悪感を持ち生きていることが心配で心配で、あの手この手で美津江を応援する物語。戦争と原爆、被爆者という重いメッセージを扱いつつ、とても、優しく、温かく、時にコミカルな内容です。

 

お芝居を観る前に黒木監督の映画を観て事前勉強しておこうかと思いましたが、先入観があるといけないと思い、そこは思いとどまり、当日のお芝居を楽しむことにしました。

 

小学校3年生に伝わるのか?

 

今回、私は小学校3年になる息子と一緒に観にいくことにしました。小学校3年生なので「戦争」がよく分かりません。「原爆」もよく分かりません。正直、難しい内容だろうなと思っていました。もちろん、事前情報ゼロというわけにはいかないので、お芝居を観に行く道中、戦争とは、原爆とは…という話をしましたが、なにせ、運転しながら、一時間程度。途中、脈絡もない会話に飛んでしまったりしていたので、実質30分程度かもしれません。

 

劇場について、会場を見渡しましたが、小学生の観劇者はうちの息子だけでした。むむむ…果たして、どうなのか、そして約90分のお芝居に集中できるのか??

 

…お芝居を観終わった息子の感想は…「すごかった」でした。そして「戦争は絶対にしちゃいけないんだね」でした。さらに「はじめてお芝居を観たけど、面白かった」でした。

 

そう。詳しく息子に聴くと、やはり歴史的なことだったり、専門用語だったり、なかなかキツい広島弁だったり、全部を理解することは(大人でも難しかったかもしれません…)できなかったと言っていましたが…小学3年生にもしっかり伝わっていたのです。

 

なぜ、伝わったのか…それをプレゼンテーションの視点で解説していきたいと思います。

 

ツカミって大事

 

父と暮せば佐藤正和

プレゼンでも同じです。私がセミナー等でお話する時も同じです。

 

会場に入ってすぐ、その場の雰囲気ってとても大事だと思うのです。例えば私の場合、極度の人見知りですが…貴重な時間を使って、私のセミナーに時間を割いてもらったお礼を込めて、元気な声で挨拶します。

その事によって、受講者は「あ、この人はちゃんと挨拶してくれる人だな」と思ってもらえるだけで、ハードルは下がり、聴く姿勢を作りやすくなりますよね。

 

息子を連れて行ったからかもしれませんが、入り口のところから、元気で、優しい声で息子に接してもらいました。自由席なのですが、入り口から客席まで案内してもらって、ホスピタリティあふれる対応だなぁと感じました。息子からすると、自分はここで観劇して良いんだ、と思ったでしょうし、初めてのお芝居の第一印象は、とても感じのよいものだったと思います。

 

そして、一番前の列で観劇することになりまして、舞台と私達の距離は1m程度。ほんと目の前が舞台です。写真にある通り、丁寧に作り込まれた戦後の昭和セット。舞台が始まるまで、この舞台を眺めながら待つわけです。この小さい舞台でどのような90分のストーリーが展開されるのか。ワクワクが止まりません。息子も「いい味でてるなぁ」と感心しきり。

これはプレゼンテーションでいうと、まさに「ツカミ」の部分なんですよね。ツカミって、話し出す前からなんですよ、実は。つまり、スライドの1枚目だったり。ただ、小さくプレゼンタイトルの文字が並んでいるスライド使ってませんか?勝負は、話し出す前からスタートしているのです。

 

開演。舞台の演出の定番、BGMが大きくなり、フェードアウトしながら、会場がゆっくり暗転。そして、完全に真っ暗になり、数秒、会場がシーーーーンとなる時間があります。コレこそが、舞台と客席を引き合わせ、一つにする時間。この絶妙の間。これが長すぎても、短すぎてもいけない。私と息子はこの最初の「ツカミ」で一挙にお芝居に引き込まれることになったのです。

 

構成の妙。敢えて、伝えない妙。

構成については、今までもいろいろなブログで書いてますが(プレゼンの構成を「神話」に学ぶ(物語で心を掴む方法))これに関しては、巨匠、井上ひさし氏の戯曲ですから、さすがとしか、言いようがありません。

 

あらすじにも書いてありますが、このお芝居は「原爆で亡くなった父親が幽霊として出てきて、娘のことが心配で一緒に暮らす」という設定で始まります。実は私、この設定を息子に事前に伝えてなかったのです。(原爆で亡くなったお父さんがいてね…とは伝えていたので、幕が上がってすぐは、原爆が落ちる前の話だと思っていたと思います。)

 

だから、息子からすると、舞台が始まった時は、ただ単に父親と娘のお芝居に感じたでしょう。

 

しかし…途中、お父さんはご飯が食べられない設定だったり、しばらく出てこない設定だったり、ドラえもんのように押入れにいる設定だったり…があって、自然と気づくわけです。

 

また、なぜ娘の美津江が、自分をこんなにまで卑下するのか、自分は幸せになってはいけないと頑なに思うのか…がシーンが展開するごとに明らかになっていきます。そしてクライマックスに入ってくるシーンで、すべて伏線が回収され、父親の思いが娘に届き、娘がようやく前を向いて進んでいける…という、今思い返しても、鳥肌が立つ構成力。

 

冒頭で「お父さん、幽霊で出てきちゃった」と敢えて伝えない構成。時期的には映画「シックスセンス」より数年も前に舞台になっていますので、すごいな…としか言いようがありません。

 

改めて、本で読んでみたいと感じた物語です。もう少し息子が大きくなったら、夏休みの読書で読ませてあげたいですね。

伝えるチカラ、表現力がハンパない

これを言うと、役者さんに怒られますが、当たり前なんですけど、表現力がハンパないんです。

 

コロナになり、お芝居や舞台、ライブがことごとくなくなってしまった時期がありました。その関係で、リアルな表現の場がパソコンになり、テレビになり、YouTubeになり、TikTokになり…色々なものがリアルでなくなってしまいました。そのような生活が続いてしまったからか、リアル舞台の表現力のパワフルなこと!

 

記念すべき青春の会Presents第一回公演は、あのつかこうへいさんの「熱海殺人事件」。

 

コロナ禍で開催された舞台で観に行ったんですが、衝撃がすごかったです。圧倒的な表現力。特につかこうへいさんの舞台ですので、色んなものが大量放出された(^^)舞台で、見終わったあとしばらく放心状態。

 

「ああ、これがリアルのお芝居だ…ビンビン響いた〜」これが第一回公演、私の感想でした。

 

それと同じ感想を小学3年生が感じるって、本当にすごいなと。特に息子は今までテレビやスマホで観るドラマ、映画しか見てないわけです。

 

これ、言っちゃ怒られますが、ドラマなんかは本職が俳優さんではない方も演じるので、伝わらない演者さんもいらっしゃるわけです…。

 

そんな玉石混交のドラマや映画を見ている中で…佐藤さんと中薗さんの表現力って言ったら、そりゃぁもう。

 

広島弁も完全にマスターされているので、もう、私の知る佐藤さんではないわけです。完全に竹造。そして、中薗さんは初めてお目にかかりましたが、もう、原爆を生き抜いて3年後の若い女性、美津江にしか見えないのです。完全に憑依。

 

前段でお伝えした黒木監督の映画を見なかったのは、ここがあったからです。見てしまうと、竹造=原田芳雄さん、美津江=宮沢りえさんになってしまう。そうでなく、井上ひさしさんが書いた台本から憑依した竹造=佐藤正和さん、美津江=中薗菜々子さん。もう私の中では、この2人なのです。そう思わせる表現力のすごさ。

 

どのくらい練習されるのでしょうか。途方も無い練習の賜物だと思いました。でも、それであってこそ、人様に見せる伝え方になる。この感覚はわたしたちも忘れてはいけません。人に伝えるということは真剣勝負。それを手を抜くのか、それとも必死に練習して、相手にぶつけるのか。

 

相手の心に響かせるためには、やはり「伝える」ための表現力もないとダメなんだなと思った次第です。

 

神は細部に宿る。チーム戦の強さ

プレゼンテーションチーム戦演劇の素晴らしさは、やはり裏方にもあると思っています。初めの方でお伝えした案内してくださった係の方も含め、舞台に立つ役者さんだけではなく、それをフォローする裏方の方たちの素晴らしさ。

 

今回、照明も音響、大道具、小道具…いわゆる裏方と言われる方々の仕事が、本当に完璧だったと思いました。私はラジオ畑で鍛えられたこともあり、特に音響には感心しきりでした。

 

途中、雨漏りのシーンがあるのですが、竹造が押し入れから飛びてて、雨漏りを鍋でキャッチするというシーンは秀逸!

 

天井から雨だれが鍋にポチョンと落ちる効果音とのタイミングもピッタリ!

 

そうなるとどうなるか…その舞台は本当に雨漏りしている屋根のある家の中になってしまうわけです。

 

つまり見ている側が完全にそのシーンに入り込んでいる状態になるということですね。

 

ちょっとでも音のタイミングがずれれば観客側のストレスになるし、そうなると物語に入り込めないし。実は地味なようでとてつもない作業なのです。

 

照明もしかり、途中、台所で美津江が作業をするシーンがありました。ここでは、照明をつかって、影を投影し、実際の舞台上では出せない奥行きを作り出していました。台所で料理をしているシーンは見えてはいないですが、その影と包丁で切る効果音とが合致することで、観客は美津江が料理をしている情景を想像し、家の間取りを想像することができるのです。まさに神は細部に宿る。

 

プレゼン資料も同じで、ただ作れば良いというものではありません。なぜ、その背景なのか、なぜ、その文字の色なのか、その写真の位置はおかしくないのか、アニメーションの動きが見る側を混乱させていないか…などなど、ちょっとしたことを考えているかが大切になってくるというわけです。

 

演劇というものは、役者、裏方、観客のすべてが、一つの作品と言われています。どれが欠けても成立しない。そして、誰一人として、一瞬でも気を抜けば、ちょっとしたストレスが生じてしまう、決して同じものが出来ない代物です。だからこそ、チーム戦になる。

 

プレゼンも同じで、企画、構成を考える人、パワポ資料を作る人、それを話すプレゼンター、そして、主催する人、それを聴きに来る人。様々な人たちが関わり合い、伝える側が全力で伝えるからこそ、聴き手もその中の一部となり、プレゼンは行われるのです。

 

なので、私は、演劇と同じで、絶対成功するプレゼンは無いと言い聞かせています。絶対は絶対にない。

 

観客の中に、体調が悪い人もいるでしょう。うっかり電話を鳴らしてしまう人もいるでしょう。そんな中でも、伝える側がチーム一丸となり、どれだけ伝えることに必死に向かい合い、1人でも多くの聴き手を引きつけ、魅了させることができる状態を作れるか、が大事になります。

 

プレゼンの大切な要素は演劇で見つけることが出来た

 

そこまで徹底して、伝えることに向かい合ったからこそ公演にこぎつけることができるのです。プレゼンテーションも同じこと。

 

逆にここまで徹底してない、練習不足の状態でのぞんだら、どんな状況になると思いますか?伝える側も、自信がないし、見る側も本気になれないし…良いことは一つもありません。

 

今回の「父と暮せば」を観劇して、プレゼンテーションの真髄を観たような気がしました。

 

すべてをプレゼンテーションに落とし込んで解説してみましたが、そんなことをせずとも、私自身、たくさん涙を流し、感動し、笑い、ほっこりし…、なにより小学校3年生の息子まで引き込む、役者さん、裏方さんの表現力、伝えるチカラに心底、感心しきりでした。

 

素晴らしいお芝居、ありがとうございました!!

 

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

 

 

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